遅ればせながら
あけましておめでとうございます
今年も、忘れた頃に更新します
よろしくお願いいたします
店主敬白
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外から見た湖月堂▼撮影=11/13/07、3枚目は11/27/07で旧カメラ使用
その店は
中央カリフォルニアの都市
フレズノ(Fresno)・ダウンタウンの外れにある

フレズノにはかつて2本の旅客鉄道が走っていた
北側にサンタフェ鉄道の駅
こちらが今はアムトラックの駅となっている
南側にサザンパシフィック鉄道の駅
こちらは面影こそ残しているが
旅客扱いはしていない
その代わりにすぐ近くに
貧乏旅行の友・グレイハウンドのターミナルがある
ダウンタウン中心部は
それらの鉄道駅からやや北西に位置する

その店は
南側の駅、すなわち廃駅からすぐのところにある
1930年代頃の面影を感じさせる
小さな小さな旧支那人街の中にある
地元の人に聞くところによると
その旧支那人街、そうはいうものの
日系人や欧州系の人々も住み
名ばかりだったということ
アメリカのチャイナタウンによくある
Chop Suey(アメリカにしかない支那料理の名。野菜炒めのようなもの)の看板と
怪しげな漢字が並ぶ建物が
まぁ、旧支那人街なのかなぁと
思わせる程度

寂れた旧市街の商店街
仕舞屋もちらほら
そこに和菓子屋がある
人が少ないからホームレスが目立つ
最近パーキングメーターが撤去され
2時間まで駐車自由になった
それだけを見れば
炭鉱が閉山になったような
日本の田舎町にもありそうな光景だ

しかし忘れてはいけない
ここはカリフォルニアのど真ん中だ
確かにフレズノは
かつては日系人の街であったが
今はやはりヒスパニックが増殖しているこの街に
手作りの和菓子屋さんが
実在しているのだ

和菓子が入っている塗の箱がアンティーク その店の名は
湖月堂(Kogetsu-Do)

噂には聞いていたので
一度立ち寄りたいと思っていた
店の中は
確かに「和菓子」は並んでいたものの
小物や日本の洋菓子も並び
雑然とした感じで
日本の商店街にある和菓子屋とは
多少イメージが違う

しかし、ラップに包まれた餅の中には
草餅まであるではないか
さらには薯蕷饅頭を思わせる
トラディショナルな紅白饅頭
この果てしなく広がる畑の中に浮かぶ
中途半端な都会にはふさわしくない
恐るべきミスマッチ

白い餅の中で
つぶ餡、漉し餡、白餡のものには表示がないのだが
英語で「餡」の種類が書かれたものがある
ラズベリー、チェリー、アプリコットと
フルーツ餡が豊富にある
さらには、生のフルーツが入っているもの
フルーツとアーモンドバター(!)のコンビネーション
チョコレートをそのまま
餅の中に入れてくるんだものと
「和菓子」の常識を覆すものが並んでいる

これが湖月堂のチェリー餅だとりあえずチェリーを購入
口の中で餅が溶ける
明らかに求肥だ
しかもかなり柔らか目
そのほのかに甘い求肥の中から
あふれ出るチェリーの果実とソース
パンケーキやワッフルにかかっているあれだ

うっ、うまい!

アプリコット、ラズベリーと
立て続けに試してみたが
どれもこれも
今までの和菓子にはない感触と風味だ
これはミスマッチではない
すばらしい発明だ

リンは「そんなに古いもんじゃないわよ」と言ったが十分古い店内をよく観察すると
年代モノのレジスターがあり
餅や饅頭が行儀よく並んでいる塗りの箱は
やはりこの店の歴史を物語っている
湖月堂が和菓子屋だったのだと再認識させられる

「何で湖月堂っていう名前なの?」
と聞くと
「死んだおじいちゃんに聞かないとわからないわよ」と
店主のリンは笑った
長崎、福岡、千葉、三重など各地に同名の和菓子屋は存在するが
それと何らかの関係があるのだろうか

日系人の歴史は
彼らの不幸な強制収容所体験もあり
次第に忘れられていく傾向にある
しかしその一方で
こういった有形無形の日本文化が生き残っている
それを何とか残すことが
一番アメリカに同化している移民・日系移民にとっても
そして日本の国益にとっても
重要なことではないかと思うのだ

その店の名は
湖月堂
という