違和感を感じるのは時代遅れか▼撮影=11/12/07 アメリカには、読者が予想する以上の寿司屋が存在する。寿司を供する日本料理屋と言うことになると、その数は想像を絶すると思う。
 ある韓国人の商店主と話をしていたときのことである。彼女は店にキッチンを作って、「ロール」(日本で言う巻き寿司のことだが、具材に日本人が想像を絶するものを用いることが多い)を店で出すことを検討中だという。なぜ韓国料理にしないのかと尋ねたら、韓国料理の材料が集めにくいことと、日本料理、特にロールは、準備が簡単だからとのこと。
 腹立たしい話だが、寿司は簡単な料理だと、アメリカでは思われているのだ。
 実際、ロサンゼルスにある「寿司学校」では、3ヶ月で一通りのことを教えてくれる。それで一人前になったつもりの「スシ・シェフ」も多い。ちなみに日本では3ヶ月なら、まだ出前だけしかさせてもらえないだろう。
 寿司エピソードその1。
 寿司職人を募集していたある店に、一人のアジア人が応募してきた。店主が魚を下ろさせてみると、全くできない。彼は「サクどり(寿司や刺身にしやすいように、ブロック状に切った冷凍魚)しか扱ったことがない」と言った。
 寿司エピソードその2。
 日本人ベテラン寿司職人の店に、ヒスパニックの客が来た。お任せだというので握りのセットを出したら、「こんな寿司がどこにあるんだ」と怒りだし、寿司はのりで巻いたものだ。おまえは修行が足りないと説教を始めた。
 これが恐るべきアメリカの寿司事情だ。有名な店でも、日本人以外が握ると、小さなおにぎりに魚の切り身が載っている、という握りが出てきてがっかりすることしばしばだ。
 クイズ 次のロールの主な具は何でしょう?
 (1)カリフォルニア・ロール→これは日本にも逆輸入されていると聞く
 (2)フィラデルフィア・ロール
 (3)スパイダー・ロール
 (4)レインボー・ロール
 これは、ある馬鹿な寿司屋のオリジナルではなく、どの店にも共通してあるメニューだ。かっぱ巻きとか、お新香巻きと同じ概念なのだ(回答は末尾)。
 どうだ、まいったか。アメリカ人はこんな「寿司」を好んで食べているのだ。
 で、写真の御仁。彼はタイ人。名前はボー。本当はもっと長い名だが、誰も覚えられないのでそういうことにしている。因みにカミさんはシンディー。彼女の名前も同じ理由で短くなっている。
 彼はこの街では名の通ったスシ・シェフだ。日本人が経営する店で修行をはじめ、腕を磨いた。その後、新しい店ができるたびに、スカウトされて転々とし、先頃自分の店を持ったのだ。アメリカのレベルではあるが、一応、腕は立つ職人、ということだ。
 コメディーの悪役のような味のある顔だが、やはり日本人の顔ではない。こういう人が寿司を握ることに、違和感を覚えるようでは、アメリカで寿司は食えない。それでも食うかどうかは、本人のポリシーにかかわってくる。
 エピソードその3。友人同士の会話。日本人「俺は、日本人以外の板前が握った寿司は食わないんだ」。メキシコ人「そりゃおかしい。誰が握ったって、寿司は寿司じゃないか」。日本人「じゃぁ聞くが、お前さんは支那人が作ったタマーレスを食うか?」。メキシコ人「死んでも食うもんか」。日本人「それと同じだよ」。
 小生? 握りは日本人が目の前で握ってくれる店でしか食べないことにしている。ロールは仕方がないが、あえて自分で金を出して、ロールを食おうとは思う機会は少ない。魚の味がまじり、甘いソース(大抵は蒲焼のタレ)や辛いソース(Srirachaソース)にその味が負け、何を食っているのか分からないようなロールはいらない。
 個人的にボーは好きだし、シンディーも親切だし、娘たちは素直で、親父に似ずに母親に似て可愛いんだけど、彼の店ではやっぱり、握り以外のものを頼む。味噌汁なんか、天カス(揚げ玉)が入っていることを除けば、ちゃんとした味噌汁の味だし(変な店に行くと、コクを出すためなのか、味醂を入れているところがある)、照り焼きチキンは甘さが少なく日本人好みの味なのだ。彼が腕のいい「コック」であることは間違いない。
 ある日厨房を覗くと、賄いにタイ・カレーが作られていた。それがメニューにないのがとても残念だった。

※クイズの答
(1)スノークラブのサラダとアボカド。安い店では、スノークラブがカニカマになる。胡瓜も一緒に巻くこともある。基本的に裏巻きで、外側に煎りゴマをふる。
(2)クリームチーズとスモークドサーモン。
(3)唐揚げにしたソフト・シェル・クラブ。
(4)いろんな種類の魚の切り身を並べて、虹に見立てる。